「今の不満点。」
「男に好かれる。」
「周りに集まられる。」
「束縛が酷い。」
「周りがピリピリしている。」
「だとしても顎で使えるわけじゃない。」
 俺と田代は交互に読む。その続きを斎藤は読む。
「したいこと。普通の友達みたいな関係になりたい。生物室に集まらないで欲しい。自由が欲しい。」
 ちなみに幸永は生物部らしい。
「そして、目標が、要らない縁を断ち切って、一から友達作りを始めたい、です。」
 幸永は何枚もあるメモを並べながら、自慢げに言う。本人が今の状況を理解できたならいい。確か、斎藤も似たような状況になったと橋本は言っていた。ならどう思うのだろう。彼の顔を覗く と、彼はやっぱり何を考えているかわからない。

「これから僕は、流した告白を全部断ってきます。」
「え。ちょ、どういうこと。」
 驚いた田代に、幸永はニコニコしながら答える。
「はい。僕、男に告白モドキされて、驚いたんです。よくわからなくて、きっと友達として好きなんだろうな、って思うことにしてました。そりゃ、十人超えてからは現実逃避ですけど。気が付 いたらじわじわとあの形になっていたんですが、その頃にはもう後には引けなくて。」
「外堀埋められたんだな。」
「はい。今の状況を一旦白紙に戻します。」
 あの形になる経緯がなんとなくわかった。現実逃避してたらいつの間にかあの極論の形になって、状況がわからなくなった、と。コイツ自身優柔不断なのだろう。優柔不断なのと、周りの押しが強かったことと。周りも人数が多いから、焦ったのかな。男って変なところでプライドを働かせるから、嫉妬からか一緒に居なければ、と思ったのかもしれない。
 幸永はニッコリと笑って、斎藤の顔を見る。
「どうですか。斎藤先輩。」
 彼は静かに頷く。思わず田代はツッコむ。
「いや、斎藤。喋りなさい。」
「…きゅ、急に声かけられても言葉詰まる。」
 確かに彼の声、今かすかすだ。

 幸永は頑張ろうと言う気概に溢れていて、頷く。
「僕が優柔不断だったからこうなったんです。いや、予想外過ぎた展開ですけど。」
「まあ、そうよね。告白流してたらこうなるって普通はならないものね。」
 彼女の言葉に幸永はエヘヘと笑う。
「僕、一対一だったら流されそうになると思って、セリフ書き出してみたんです。」
 今回は完全に断るつもりなのだろう。何枚かあるメモを捲り、読み上げていく。
「ケース1、「友達からでいいから。」僕の答え。「絶交です。」…ドヤ。」
「…待て待て待て。一応相手はお前のこと好きでいてくれてんだから、せめて敬意は表せ。」
「えー、上内先輩。そんなこと言われても。」
 不満そうな彼に、俺は斎藤の方を向いた。斎藤は頬杖をついたまま答える。
「…そういう場合、逆上して襲われそうになる可能性。」
 確かに何がダメなのか答えてもらおうと思ったけど、まさかの反応。
「え、斎藤体験済みなのか。」
「歯、食いしばれ。」
 大きく振りかぶった彼を無視し、幸永の方を向く。彼は何枚か紙を取り出す。
「ケース8、「そんなこと言うなら、一度でいいからヤらせろ。」僕の答え「110番もしくは、斎藤先輩に電話して助けを求める。」これで完璧。」
「…幸永。それは根本の解決になってない。ストーカーで被害受ける女みたいになってる。」
 斎藤の言葉に幸永はあー、と考えた。
「じゃあ、「僕、実は女だったんです。」はどうでしょう。」
「いや、アイツら元ノンケだろ。んなことで収まるわけねえだろ。」
「股間を蹴る。…ああ、僕の中の雄な理性がそれはできない。」
 幸永は頭を抱える。
「大体、僕ってどのくらい好かれているんですか。ヤンデレだったら回避不可能に近くないですか。」
「警察に連絡するのも、退学させるのも、文化祭前だから控えたい。」
「え、上内先輩。僕の貞操の危機は文化祭開催の前では……。」
 幸永は絶句しているが、知ったことではない。田代がハイハイと手を上げる。

「もういっその事、誰かのことが好きだからって断るのはどう。」
「その人に被害が及びそうで…僕も考えたんですけど。」
 困ったように眉を下げる彼に、田代は続ける。
「いやあ。女子の名前言ったら可哀想だからさ。上内か斎藤の名前言えばいい。」
 驚いた俺たちに、田代は続ける。
「ほら、じゃんけん。」
「じゃんけんしねえよ。変に恨まれるの嫌だし。」
「既に幸永に名前出されてるだけでも気に食わないのに。」
 幸永は苦笑いをする。

 さて。本気でどうやって断ろうか。いつもなら誠実に断れば、わかってくれそうな人もチラホラいたのだが、なんか性格変わってそうだし。確かに生徒会の明川も泉も柊も金森もみんないつもは頭良い奴なんだ。確かにキャラ濃いし、攻略キャラっぽいし、お前何言ってんだ、みたいな時も多いけど、普段だったらわかってくれる系の人物。
 でも人が変わっているみたいだしな。
「これは一人一人対策を練った方がいいのかもしれない。」
「…そうですね。じゃあ、優先すべきは生徒会の人ですか。」
「そうだな。そっちの方が有難い。」
 理系チート、会計明川望。普段なら、興味のあることと言えば数学とか理科の話。でもなんで、こんなに幸永に夢中なのかもわからない。大体、アイツは好きなことに真っ直ぐ過ぎるけど、周りも気にしてるぞ。
「いつもの明川だったら、文化祭の会計資料渡したら静かになるよな。」
 田代は眉をひそめる。
「いや、いつもが可笑しかったんじゃない。」
「それもそうだけど…ああダメだ。幸永が告白断った場合とか思いつかない。」
 あと、女の子大好きだけど本気になる子は今のところいないと評していた、庶務の泉梅太郎。確かに元気な柴犬系男子だけど、あんなチャラかったっけ。本気になった人、幸永だけって大丈夫か。
「泉…泉…。パス。」
「うん。泉はいい。何かに執着してる姿なんて想像できない。」
 斎藤と幸永が不思議そうに顔を見合わせている。
 次声かけたの誰だっけ。柊為吉だ。一年の、会計の。真面目な体育会系の爽やか少年。サッカー部と掛け持ちしていたと聞いたけど、一年のうちからサボっていいのか。どうせ生徒会もサボってんだから部活もサボってんだろう。恋愛に真剣になってるって言ってたな。アレ、彼なりに真面目なつもりなのだろう。
「柊は…あそこまで青春を振りかざされたら俺は何も言えない。」
「そうね。「僕は抑えきれない思いを昭一郎にぶつけた。」とかいい感じのモノローグ入ってそうだしね。」
「僕、ぶつけられるんですか。」
 幸永はヒイと身を引く。

 最後は、…ムカつく生意気な一年、金森史。庶務だ。プライドが高く若干ナルシストが入った優等生。口が回る。基本は岩崎に対して敵視していて、俺には何も言ってこないのだけどストレートに反論された。つーか、アイツ田代と俺にだけは素直に言うこと聞いてたよな。何アレ。
 幸永に告白断られたら。…元々プライド高いのに態々好きになったとかそういう印象なのだろうか。あ、あり得る。岩崎もそのスタンスなのかもしれないし。だったらどうだろう。断られたら。いや、アイツプライド高いけど、自分の上が居るのは認めてるからな。
「金森。アイツならなんとかなるかも。」
「金森くんが。」
 驚いた幸永に、田代も頷く。
「アイツプライド高いし、ちょっとズタズタにして、トラウマ植え付ければ戻ってくるんじゃない。」
「アイツってなんやかんやでヘタレだしな。」
「逆上して性的に襲ったり、イジメっ子になるなんてプライドが許さないだろうし。」
「結構仮面外れて来ててもまだカッコつけてるしなー。」
「ホント可愛いよね。」
「ええええ。」
 絶句する幸永。これはいけるとテンションがあがる田代と俺。それを静かに見つめる斎藤。


 そうとなれば、時間をかけられない。せめてこの一週間以内にどうにかしなければ。



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