田代は俺と斎藤を見て眉をひそめる。
「そんな大きな子、飼えないんで返してきなさい。」
「お母さん、そんなこと言わないで。」
「今なら情が沸いてないし、もと居たところに戻してきなさい。」
 まるで、子猫を拾ってきた子供と返して来いと言う母親のような会話。そんな俺と田代を見て、斎藤はポツリと呟く。
「俺、猫なの。」
 猫みたいなものだと思いつつも、田代は俺の腕をパンパンと叩く。
「で、実際のところなんで斎藤。」
「風紀委員の監査だって。」
「そうでなくても面倒臭いのに、なんで、また面倒なの連れてくるのよ。」
「斎藤だから大丈夫だよ。」
「なんの根拠で。」
 意味が分からないと息を吐く彼女に、俺は軽く笑う。
「お前はクラス違うし、わからないかもしれないが斎藤は風紀委員の中で一番風紀委員っぽくない風紀委員だ。」
「……はあ。」
 俺の言いたいことがわかっていないらしい。そんな田代を他所に俺は斎藤と適当な席に座らせる。それから、彼の前に書類の山を置く。

「え。」
 驚いた斎藤に俺はニヤリと笑って言う。
「この書類はクラスの出し物について書いてある。もう許可済みのものばかりだ。」
「…え、俺って監査で来たんだよな。」
「監査のついで。」
「え。」
 俺の意図していることがわかったのか、田代はなるほどと手を合わせた。俺と田代を見比べて彼は眉間にシワをよせる。
「これが去年の表だ。」
「…クラスの出し物の表を作れってこと。」
「斎藤は頭が良くていいな。」
「これって生徒会の仕事だろ。」
「監査のついでだよ。」
「風紀委員に仕事させたくないんだろ、お前ら。」
「風紀委員の斎藤隼太に言ってるんじゃない。クラスメイトの斎藤隼太に頼んでんだ。」
 そんなの揚げ足取りだ。と言いたいのかジトリと俺を睨む。でも、斎藤は少し周りを見渡す。書類の山と壁に貼られたやることリスト。斎藤の仕事の資料として、去年の先輩が残した仕事ノートの、文化祭準備のページを開いて隣に置く。彼に渡した仕事は、既に決まった出し物を表にまとめて、新聞部の文化祭のしおり作りの資料とする、その資料作りだ。クラス一枚にまとめられた 企画を学年で一枚の表にまとめ、それを新聞部には渡す。
 ボールペンと鉛筆と消しゴムとメモとしてコピーの裏紙を隣に置くと、観念して、鉛筆を手に取る。
「上内。もしかして、俺を指名したのって。」
「山下みたいなのが来たら仕事任せらんないじゃん。」
 生徒会が仕事を押し付けられた、と鎌田先輩には知られたくない。でも、斎藤なら言わないだろうし、手伝ってくれるだろう。
 多分斎藤は、この仕事は生徒会のものだからやるべきではないと思っている。けれど、壁のリストに書かれた「新学期までに終わらせる」という文字や「会長を呼び戻す」という言葉にしょうがないと思ったのだろう。今は非常事態。彼も状況はわかっている。確かに自業自得の事態だけど、俺と田代は真面目にしているし被害者なのだということもわかっている。そして、風紀委員の自由役員なんてやっているくらいなんだ。彼は何気にウチの学校が大好きだ。だったら、文化祭を成功させたいと思うのは当たり前。

 斎藤は書類を数枚見て、表の欄と去年の表を見比べる。それから、ゆっくりと表を埋め始める。どうせ最後は俺がチェックするのだ。それに斎藤に渡した仕事は明日までに終わらせるノルマ。時間がかかったとしても、明日の分が減るなら万々歳。
 彼は軽くため息をついた。

「委員長になんて報告すればいいんだよ。」

 俺は答える。

「好きなように。」

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