次の日から仕事は俺と田代と斎藤で回していくことになる。流石に、生徒会しか見せられないような個人の話とかそういうものは俺や田代で終わらしていくけれど、ほぼ雑用のような仕事は斎藤に任せる。彼は面倒臭いと思っているようだが、根は真面目。私語も少ないし、順調に仕事が減っていく。壁に貼られた数枚のやることリストは斎藤のお蔭で思ったよりも早いペースで終わっていく。
 思ったよりも斎藤は仕事が早い。風紀委員でも種類は違えど似たようなことをやっていたからか、軽く説明して、去年のものとノートを見せるとあとは仕上げてくれる。一応全部丁寧にチェックしているのだが、基本的には何も手を加えなくても終わるくらい。字が綺麗で読みやすいのも有難い。
「田代―。お前のそれあと一時間で終わるか。」
「一応。明日またミスがないかチェックしなくちゃなんないけど。」
「ならいいや。斎藤は。」
「終わった。」
「マジか。新聞部関連全部終わったじゃん。」
 斎藤は座ったまま資料を此方に渡す。それを受け取り、パラパラと見るが大体間違っていない。
「斎藤マジありがとう。毎年文化祭冊子の資料作りって、結構面倒臭いのよね。」
 田代は表情を緩める。最近田代は女子とは思えないほど不機嫌顔をしていたので久しぶりににこやかな顔を見た。
 文化祭冊子とは、毎年新聞部が作っている文化祭のステージ、教室、校庭全ての内容を記したパンフレットだ。生徒会が作った事務的な資料を新聞部がわかりやすく作り替える。ただ、生徒会がそれを作り上げるのは大体文化祭の二週間前で、新聞部としての展示もあるため、ある程度作っておかないと間に合わない。元々それほど人数が多くない、新聞部は、間に合わないと言うことを避けるため、事前に一か月前くらいに資料を生徒会から貰っておくのだ。枠組みができていれば細かな修正は二週間で事足りる。
 ただ、全てのクラス、部活、愛好会の内容なので、量が多い。確かに新聞部のために作った資料を見て生徒会も準備をするのだが、まとめると言うのは骨が折れる。
 斎藤ははあとため息をつく。
「集中してたし疲れただろ。冷たい麦茶とかあるけど飲むか。」
「…うわ、生徒会室冷蔵庫あるのかよ。」
 俺の言葉を聞いて、田代が冷蔵庫を開く。それを見て斎藤は眉を下げる。先生に許可を得ているし、長時間ここで仕事をすることの多い生徒会では必須アイテムだ。それをわかっているのか、斎藤は口を閉じる。田代は新しい紙コップに黒マジックで「さいとう」と書いて、それに麦茶を入れる。それから、彼の前に置く。

「そろそろ片付けしなきゃなんないから、ちょっと休憩してて。」
「ありがとう。」
 斎藤はコップを両手で包み込むように持ち上げ、ゆっくりと飲む。…なんというか、随分可愛らしい。普段はマイペースで、可愛いとは程遠い感じに周りに壁を作っているのだが。田代も同じことを思ったみたいだ。少し笑って、それから、また自分の席に座る。
「斎藤、時間大丈夫か。」
「大丈夫。俺別に塾とか行ってないし。」
「そっか。」
 それだけ言って、斎藤の仕上げた資料を見る。いつも通りしっかりと出来ている。これならば明日にも新聞部に資料を渡せそうだ。本当だったら新学期になってから渡す筈が良い方向に予定が早まった。

 それから、暫くして田代はシャーペンの芯を軽やかにしまうと大きく伸びをした。
「終わった。」
「おう。」
「チェックは明日する。」
「なら、片付けしよう。」
 夏休みの先生は大体19時には帰る準備を始めてしまう。確かに授業が無いのでこちらの都合で長く開けてもらうのも悪い。それに田代だって女の子なのだ。18時半には帰る準備を初め、生徒会室の戸締りをして19時には職員室に鍵を返さなければならない。
 仕事は初めの時間を守るのも大事だが、終わりの時間を守るのも大事だ。去年の生徒会長の向田加奈子さんと風紀委員長の鎌田先輩の意見が一致した唯一の例。ならば守るべきだろう。ダラダラと仕事をするよりも、集中して行う方がいい。今、ミスがないかチェックしても時間に追われて2度手間になるくらいなら、明日の朝また新しい気持ちで見直した方がいいということ。
俺が立ち上がったところで、田代も書類を整える。斎藤も少し戸惑いながらもコップを流し台で洗い、生徒会のみんなが干している洗濯バサミに挟んだ。紙コップは毎日変えていたら勿体ないから洗って乾かしている。その生活染みたのを見て、彼は少しだけ笑う。
「斎藤、随分生徒会になれたね。」
 田代の言葉に斎藤はあーと言葉を漏らす。
「生徒会の仕事ノートまで見せられたら、慣れるしかないだろ。」
「あ、上内。もしかして、これ見せたらヤバかったのかな。」
「いいんじゃね。斎藤だし。」
「上内って俺のことなんだと思ってんの。」

 そんなことを言いながら鞄に荷物をまとめる。窓のカギを確認して、冷房を切る。それから、忘れ物が無いか確認する。
「じゃあ、帰ろうか。」
「ああ。」
 部屋を出て、電気を消して、鍵を閉める。

 そろそろ新学期だと言うけれど、1週間前よりも焦りは少ない。

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