元々始業式にある筈の生徒会長の話、アレは岩崎に頼むつもりはなかった。別に副会長が挨拶してもいいわけだから、俺が壇上に上がる。通例通り二学期頑張ろうってことと、文化祭のことを話して話を終わる。いつも通り警備のように体育館の壁に並ぶ風紀委員の先頭で、鎌田先輩は俺を睨む。
もう生徒会を引退して、三年生の列に並ぶ元生徒会長の向田加奈子先輩も、俺の顔を見て、心配そうな顔をした。

それにしても他の生徒会メンバーは、ノー天気だった。

教室に戻る途中の人ごみの中、俺の両隣に山下と池井が来る。いつも思うけど二年の風紀委員の山下と池井は出しゃばり過ぎだと思う。次期風紀委員長、次期風紀副委員長と名高い二人だからなのか。
「素晴らしい挨拶でしたね、上内くん。」
前から思ってたけど、池井は何故同級生にも敬語なんだ。
「あ、ありがと。」
「会長の話じゃなかったんだ。」
「別に生徒会からの話だから、特に決まりはない。」
「ああ、知ってるぜ。」
「僕だって知ってますよ。」
知ってるなら言うな。前から思ってたけど……やっぱりコイツラ腹立つ。そして、俺を弄ってる時のコイツラはいい笑顔だ。

「こっちは生徒会のお蔭で斎藤の仕事まで回ってきましたからね。」
「ま、あいつの仕事如きすぐに片付けれるけどな。」
「けど、斎藤くんだって風紀委員の自由役員。…今、斎藤くんのお蔭で生徒会が成りたててるってこと忘れないように。」
なあ、斎藤。お前と同じ委員会の人、なんでこんなに腹が立つだろうな。斎藤は普通なのに。
「おそらく、斎藤くんは次期風紀委員会の書記になる人ですからね。」
あれ、彼の風紀委員会での立場が本当にわからない。いじめられてると思ったけど、結構取り立てられてた。
「それって凄いの。」
そう尋ねると二人は一気に俺を睨む。
「何様のつもりですか。凄いに決まってるじゃないですか。」
「そりゃ、俺ほどじゃないけど、鎌田委員長にだって取り立てられれるんだ。一年の時からコツコツやってきた努力家だ。」
「斎藤くんをバカにできる立場でもないのに、何を言っているんですか。」
なるほど。斎藤はツンデレ的に好かれているのか。今、斎藤の立場がなんとなくわかった。道理で、彼が風紀委員の仕事をしている場には大体この二人が居る筈だ。なんやかんやで三人仲良しなのな。最近短い期間で何度も風紀委員に嫌味を言われるので、こんなことも考えれるくらい冷静に慣れてきている気がする。
「そーなんだ。」

そんな好かれている斎藤を生徒会に回しているってのはやっぱり、異常事態。ふと、窓の外を見ると向かいの棟の下の階が見えた。そこを何故か岩崎が歩く。
「ちょ、上内聞いてるのか。」
何か文句を言っていた二人を無視して、窓の縁に手を当てる。岩崎は何処かに向かっている。確か、あそこは一年の教室がある。始業式に俺が挨拶しているということに、ツッコミすら入れないほど。
追いかけていこうかと思ったがやめておく。俺はそのまま二年四組の教室に入る。

「あ、ちょ、こら。」
山下の声に気が付き、そちらを向く。
「あれお前ら三組と一組じゃね。」
三組の山下と、一組の池井が顔を真っ赤にした。いやまあ、四組までついて来たら行き過ぎだもの。俺は笑う。
「ああ、ここまで送ってくれたのか。」
「煩い。」
それだけ言って教室の奥に入ると二人は顔を真っ赤にしたまま元の道を帰っていく。
他のクラスの教室に入ってはいけないという校則があるので、二人は教室までは入って来ない。風紀委員が憎たらしいだけなのは、こういうルールをきちんと守るところだろう。


席に座る。さて。
今から俺は考えなければならない。放課後までに。今からホームルームが一時間。昼飯を食べてもう一時間。その後、放課後。それまでに、他の四人を連れ戻す方法を考えなければいけない。文化祭まであと一か月とちょっと。余り生徒会のことに時間を裂きたくない。
なるべく早く連れ戻し、バカ生徒会長をなるべく早く説得する。文化祭までの間だけでもしっかり働いてもらって、あとはどうするかは本人たちに決めてもらえばいい。でもとにかく何が何でも文化祭は成功させたい。
ここまで天敵である風紀委員が協力しているのだ。


いくら、生徒会が総選挙となったとしても、文化祭くらいは終えさせてくれ。

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