生徒会会計1。二年、明川望。ちなみに男。
「はあ。でも俺今日予定あるし。」
「あっても来い。」
「本当に大事な用事なんだ。本当に。」

生徒会庶務1。二年、泉梅太郎。
「今日しょうちゃんとデートだから無理。」
「……何コイツ。」

生徒会会計2。一年、柊為吉。
「あ、あの。俺今必死なんです。好きな子の為に過ごしたい時期なんです。」
「ああ、その言葉故に為吉ね。なるほど…じゃねえよバカ野郎。」

生徒会庶務2。一年、金森史。
「あのさ。生徒会って結局ボランティアですよね。」
「でも入ったんだからやれよ。」
「フ…そうやって、先輩権力振りかざす人が一番醜いんですよね。」
「お前何キャラ変わってんの。」


不思議だな。斎藤のあの吸い込まれそうな黒い目を思いだしたら、殴りたくなるのが抑えられたよ。俺ってば感情のコントロール出来てるじゃん。あれほどのクズだと思わなかった彼らを殴らなくて済んだよ。これって、斎藤マジックじゃね。俺もう兄貴と崇め奉るよ。…じゃない。
どういうことだ。一年含めてみんなバカか。いや、男子ってバカなもんだよな。確かに生徒会の男女比可笑しいと思ったけど、まさかのこういう展開になるとは。田代を取り合って男どもがドロドロするのかな、と写真を見た姉ちゃんに言われたけど、まさかこうなるとは予想外だったよ。なんでみんな男に惚れるかな。しかも必死に囲うのかな。
あれか、ゲームで言う。ハーレムエンド。ああ、それ。あ、まだか。俺攻略してないんだもんな。あとは、現実主義の俺を落としたら、完全にハーレムエンドってか。続編は風紀委員編とかかな。それとも体育会系イケメンの宝庫、体育委員攻略かな。
ダメだダメだ。現実逃避はこの辺にしておこう。

「田代。俺が悪いのかな。」
放課後。手は動かさないと仕事は終わらないから、今できることからやり始めることにする。俺の報告を聞いて、田代は思いっきり顔を歪めた。選挙したばっかりの時は可愛いと思っていた田代も今では、怒りで歪んだ顔ばかりが頭に浮かぶ。確かに俺ってば優秀だけど、田代も優秀だから結構苦労掛けてるし。
「上内も悪いと思うけど、上内の悪さが一だとしたら、アイツら五万くらい。」
「あー…わかりやすい表現。」
怒りに震える暇があったら仕事をしたい。イライラしつつも、俺と田代は同時に息を吐いた。それから、田代は麦茶を飲みほし、俺は椅子に思いっきり腰かけてクルリと回る。
「どうする田代。」
「わかんないよ。わかんないけど、手は動かさないとヤバい。」
「そーだね。」
お互い、もう一度ペンを手に取り、書類を見る。斎藤の方をチラリと見ると、相変わらず静かに仕事をしている。きっと、このことは鎌田先輩に言うのだろうけど。それにしてもヤバい。
「物理的に終わらない気がしてきた。」
もう一度立て直した予定を見ながら俺が言う。田代は、両手で自分を抱きしめて下を向く。
「現実見ないとダメだよね。」
俺はもし、このまま三人で終わらせることになったら、と一日のノルマを紙に書きだしてみた。それを見て、田代は青ざめる。俺もおそらく青ざめている。斎藤はふと顔を上げて俺の持っている紙を見た。

「バカだろ。その予定じゃ、終わらない。」
「斎藤くん。現実だってわかってるけど、今精神的にキてるからやめて。」
「うんそうだね。そうだね。だけど、辛いから今はソフトな言い方して。」
悲鳴染みた声で、俺と田代は叫ぶ。ガタリと同時に立ち上がった俺と田代を見て、斎藤は軽くため息をつく。
「…どうするつもり。」

斎藤の静かな目はやっぱり、いろいろ見透かされたように思えてしまう。きっと斎藤も夏休みの間、仕事を手伝うのはよかったのだろう。それくらいなら、問題ない。新学期までの遅れを取り戻せばいいのだから。でも、新学期まで、というのは幻想に過ぎなかった。
思ったよりも頑なに生徒会室に訪れない彼らに、斎藤も疑問に思ったらしい。
斎藤は口を開く。
「鎌田委員長も意地悪で解散とか言ってたわけじゃない。…若干私情挿んでたけど。この学校のことを考えたら、早いうちにどうにか手を打った方がいい。お前らだって文化祭成功させたいだろ。」
斎藤の意見は、…とても正論。
俺だって田代だって、文化祭は成功させたい。でなきゃ、いろんな時間削って学校朝早くから来て、夜遅くに帰るまで仕事はしない。手が痛くなるまで書き続けたり、続かない集中力を引き伸ばしながら仕事をしない。

田代は斎藤を睨む。
「気持ちはわかるけど。どうしてそれじゃダメなの。」
彼女の声は生徒会室へ響く。俺も同じことを思っている。
「ここで諦めていいほど簡単な気持ちで生徒会やってない。」
俺の言葉に田代はハッとした。そして、定まったような目で俺を見て頷く。

確かに初めは、成績の関係で入ったらどうだと言われた。一年の五月なんて、ほぼわかっていない状態で生徒会に入って、仕事をする。でも、驚いた。七人しかいないのに、先輩たちは学校の為に一所懸命仕事をする。学校のいろんなことを教えてもらった。教えてもらうたびに、学校が好きになった。
文化祭は一番学校のいいところを一般の人に見て貰える場。一つの部活じゃなくて、全体を。みんなを。

それを成功させたい。勿論、俺たちの手で。

斎藤は口を閉じる。それからうっすら微笑んだ。
「だったら、協力者を仰ごう。」
「…だから、風紀委員に頼るわけにはいかないの。」
田代は少し泣きそうになりながら言う。斎藤は、首を振る。
「違う。風紀委員じゃない。」
「じゃあ、誰。生徒会の威厳が無きゃみんなついてきてくれない。あんまり、友達とかには言えないし。」
「そうじゃない。とっておきの協力者。」
「先生もダメよ。迷惑をかけちゃいけない。」
田代の言葉に斎藤はまた首を振る。

歌でも歌うよう、彼にしては陽気な風に言う。


「一年三組、幸永昭一郎だよ。」


一年三組、幸永昭一郎。
俺たちの一つ下の後輩。白い肌、明るい髪。本人も明るくて、顔も整っていて可愛いと評判な一年生。そして、恋愛ゲームで言うと、主人公のポジション。

そう、岩崎たちが恋をしている、その男子生徒。


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